久しぶりに長文。
ご存じの方も多いだろうが、演奏者としての私は、これまでトランペットという楽器そのものに対してはあまり愛着を感じてこなかった(と言ってよいと思う)。歴史的経緯によりたまたまトランペットを吹いてはいるが、大学のころは「ラッパってあんまり好きじゃない」と公言してはばからなかったし、その後も、トランペットに対する屈折した思い(たぶん)から、「楽器はあくまで媒体であって、音楽をするためには楽器はなんでもかまわない」などと言ってきた。もちろんそのこと自体は一面間違ってはいないとは思うが、しかしそれにしても、音楽を演奏するにあたってのトランペットという楽器に対する違和感のようなものは、最近までずっと私につきまとってきたように思う。
それが最近、ヴィンディッシュを手に入れたことによって、トランペットの音に対する感覚が180度変わってしまった。前にも書いたかもしれないが、ヴィンディッシュは3代目ヘッケルの最後の弟子で、ヘッケルの工房の正式な継承者である。当時の(東ドイツの)政治体制のおかげで F.A.Heckel の工房名を継ぐことはできなかった(らしい)が、時代が違っていれば間違いなくヘッケルの名前を受け継いだに違いないのである。ヘッケルといえば、私の一番好きな50年代後半から60年代前半くらいのウィーンフィルの、あのトランペットの音を鳴らしていた楽器である。そのような、ヘッケルの伝統を受け継いだ楽器が、いま、なんの拍子にか私のところにやってきた。そして、そのヴィンディッシュを吹いたとたん、あの、ごく最近まで私にとりついてきたトランペットの音に対する違和感が、すーっと消えたのである。これは、感激を通り越して衝撃だった。
しかし、考えてみれば、それはあたりまえのことだったのだ。演奏する側でなく、音楽を聴く側としては、中学生のころからウィーンやドレスデンばかり、ときにゲヴァントハウスやバンベルクなど、要するにロータリートランペットの音ばかり聴いてきた。アメリカのオケは大嫌いだった。だから、そりゃ当然だ、聴いて嫌いな音をずーっと自分で吹いてきたのだから、違和感を感じるのもあたりまえなわけだ。聴く側としては何も考えずにロータリー楽器の音をトランペットの音として認識し、吹く側としては何も考えずにピストン楽器の音をトランペットの音として認識していた。そこに齟齬があった。なんとはなしにピストンもロータリーもごっちゃにして扱ってきたにもかかわらず、耳だけはその違いをはっきりととらえていて、ずっと違和感を訴えて続けていた、ということだったらしいと、そんなことに本当についこの間気がついた。
ついでに言うと、ベルリンフィルもあまり好きではなかった。そして、演奏する側としても、モンケタイプの楽器はやっぱりあんまり好きになれなかった。これもわかってみれば至極当然の簡単なことで、なーんだ、オレってばヘッケルの音が好きだったんじゃん、ということだったわけである。知識として、ロータリー楽器にケルン(モンケが代表)タイプとドレスデン(ヘッケルが代表)タイプの2系統がある(そして、現在のレヒナーやシャガールを代表とするいわゆるウィーンタイプはヘッケルから派生した)ということを知ったのも、ヴィンディッシュを手に入れてからである。それまではいろいろなロータリー楽器を単に「横ラッパ」としてひとまとめに扱っていたために、それらの違いについて頭で認識することはなかったが、それでも耳だけはやっぱり反応していて、敏感にその違いを聞き分けていた、ということなのだろう。(かねえ?)
そんなわけで、ヴィンディッシュを手に入れてからのこの半年というもの、本当にロータリー楽器しか触っていない。あの音に、(楽器を手に入れる前から)本当になじんでいたんだなあと、いまさら思い知った次第。(ただし、前回のクレンツェはマウスピース選択でどうにも落ち着くところが見つからず、やむを得ずピストン楽器で使っていた Bach のマウスピースで吹いた。なので、たぶん楽器本来の音は出せていないと思う)
そんなわけで、ロータリー楽器の音色遍歴が始まってしまった。こないだばっちりの組み合わせのマウスピースが見つかったと書いたばかりなのに、またまた別のマウスピースに手を出してしまった。これ。世界のトシ亀山に2ピースタイプで作ってもらった。うはー。記事に出てくる名前だけでわくわくもの。ヴォービッシュ、ジンガー、ガンシュ、シュー、アンブロース。そんな名だたる名前達にゆかりのあるマウスピースが、もうすぐ手元にやってくる。一体どんな音がするだろう。本当に楽しみ。