
私が10歳になる少し前に父がくれた楽器。この楽器がなければ、そしてそれを父が私に与えてくれなかったら、いまの私はなかった。
レッドブラスのベル、2ピースのバルブケーシング、1番トリガー、3番スライドストッパー、六角柱形状の延べ座、洋白部分両端の溝など、かなり凝った作りをしている。相当な高級品だったに違いない。ボーナス全額はたいて、というのもいまならよくわかる話だ。ショウウィンドウの中で輝いていたこの楽器を、40年前の父はどのような思いで眺めたのだろう。
3番ピストンが欠けている。どうしてそうなったのか、経緯はよく覚えていないが、しかしそうしたのは間違いなく自分のはずだ。ほかにその楽器を使った人間はいないのだから。
なんとしてもまた音が出る状態にしたい。それがどんな音を奏でていたのか、もう一度この耳で確かめたい。
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